ソイルについて

ソイルは水草水槽には殆ど無くてはならないものになっていますよね。

ソイルの基本的な性質などについて理解しておくことは、水草水槽管理に役立つはずです。

 

■ソイルの基本的な構造と機能

 

アクア用のソイルの原料は、文字通り「土…土壌」です。

土は、岩や石や砂や粘土などとは異なります。

これらに生物が関わって始めて「土」になります。

具体的には植物遺体などが含まれて始めて「土」になるわけですね。

 

腐植質が豊かな土は、自然の状態で団粒構造を見せます。

腐植質や活性アルミナなどが粒子を結着させて、土のツブツブをつくるわけですね。

団粒構造となっている土は、通気性・通水性に優れていて、酸素を奥まで供給することができるので、土壌微生物・菌類などが活発に活動することが出来て、その構造を維持すること…有機物を再供給したり、またバクテリアや菌類やミミズとかとかが出す粘液などが、また団粒構造を維持・再生することに繋がるわけですね。

もちろん植物の根もよく活動できるわけです。

また団粒構造がなければ溶出してしまいやすい様々な肥料分をよく吸着・保持してくれます。

 

団粒構造は、陽イオン交換を行います。

ちなみに世界で最初に発見された陽イオン交換は土のそれです。

陽イオン交換っていうのは、陽イオンがやってくると元々引きつけていた陽イオンをある程度出して、新たにやってきたものを吸着することですね。

 

これがソイルの大きな特徴である水槽水を「軟水化」させるしくみです。

水槽水中の陽イオン…カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)などを吸着することで、硬度を下げ、pHを下げます(弱酸性に維持します)。

 

ちなみにソイルのイオン交換の優先順位は、

 H>Ba>Ca>Mg>Cs>Pb>K ≒ NH4>Na

です。

 

またもともと腐植質を豊富に含んでいるわけですから、肥料分が豊富で水草がよく育ちます。

カルシウム、マグネシウムなどの水中の養分を足元…根にあつめてくれるだけでなく、もっとも重要な肥料分であるアンモニウム(NH4+)も集めて保持してくれます。

 

弱酸性に維持されるということは、

  • 魚のエラなどから放出される猛毒のアンモニアを、素早く少しは毒性が低くまた水草が養分として使えるアンモニウムに変えてくれる、
  • 添加したCO2が、水草が使いにくい炭酸 H2CO3に変わりにくい、
  • 鉄などのミネラルも水草が吸収しやすいかたちで維持されやすい…

などのメリットにもつながります。

 

また、アンモニウムを吸着する上に多孔質構造なので硝化バクテリアの定着も極めてよく、よく茂る水草の出す酸素も相まって、水が動く場所にあるソイルは、優秀な生物濾過材のように働きます。...いや、壊れやすくて濾過槽には入れられないことを除けば(って決定的ですけどww)、もっとも優秀な生物濾過材であると言っても、言い過ぎってこともないでしょう。

 

まさに水草水槽にとって理想的な底床材ですね。

その理想的な機能のカギは、団粒構造ってわけです。

 

市販のアクア用のソイルは、この団粒構造を、自然の土を粒状に焼き固めることで人工的につくっています。

充分に腐植質を含んだ自然の土は、適度に乾燥させて篩に掛けるだけでも団粒構造になるのですけど、水槽の中で使いやすいように…すぐに崩れて水を濁らせたりしないように・粉が散って沈んで底床内が嫌気化したりしないように焼き固めているわけですね。

 

■ソイルの種類

 

ソイルはかなりいろいろな種類のものが出ているわけですけど、その違いは、

  • 原料の土(の成分)
  • 焼き方
  • 粒のサイズ
  • 添加物など

ですね。

 

まず原料の土ですが、

黒いソイルは基本的に黒ぼく土(くろぼくど)が原料と思っておいて間違いありません。

黒ぼく土は火山灰由来の無機物と豊富な腐食で出来た土で、日本でよく見られる土壌(日本以外では少ない)土壌です。

腐植質を豊富に含んでいるので、養分豊富で水草がよく育ちます。

黒ぼく土の産地によって、アロフェン、カルシウムの含有量など性質が異なり、pHが落ち着くところ…どの程度pHを落とすか、肥料分保持の性質、水中のどの成分をよく吸着するのかなどが異なります。

 

色が薄いソイルは、もう少し深いところの土を原料にしていて、有機物の量が少ない…肥料分が比較的少ないものが多いようです。

ただ、肥料分を染み込ませたりしているのもあるので何ともですけど。

 

ソイルの色は、けっこう水槽の印象に大きな影響を与えますよね。

黒は水草の緑がよく映えて締まって見えるし、明るい色のソイルはやっぱり水槽全体を明るく見せますし。

 

ちなみに、よく吸着系と栄養系とかって分け方がありますが、ソイルはすべて硬度物質などを吸着します。

ただどれだけ吸着余力があるのか?ってことの違いですね。

この分け方は、「栄養(腐植質)が少ないもの…最初に含まれる腐植質からの養分溶出が少ないものが吸着系と呼ばれている」くらいに覚えておけば良いのではないでしょうか?

 

焼き方は、どこまでしっかり焼結させているかってことですね。

当然ですけど、しっかり中まで焼いてあるものの方が持ちは良いわけです。(ソイルがどれくらい持つかは、これだけじゃないのですけど…むしろ原料の違い・その性質の違いの方が大きい)

 

粒のサイズの違いは、事実上、ノーマルとパウダーの違いですね。

パウダータイプは、前景草の植え易さや滑らかな底床面の見た目などのために出来たもので、基本的には前景の表層にだけ使うものですね。

当然、通水性が悪くなるわけですし寿命も短いわけで、私としてはどうせ前景草が底床面を覆っちゃえば関係ないじゃん!ってことで、パウダーを使ったことはないです。

 

添加物などについては、

やっぱり代表例は、熔リン酸を添加している水草一番サンドですね。

火山灰土を原料としているソイルでは、植物が使いやすいかたちでリンを供給しにくい。ならば、リンを添加してやれ!ただ、水槽で使うのだから簡単に溶出しちゃうような形だとマズい。

ならば、く溶性(植物の根が触れて…根酸によって始めて溶け出す)のリン肥料を添加すれば良いじゃん!

ってことですね。

実際、水草一番サンドは、グロッソをヒジョーによく這わせます。

 

このあたりまでが、ソイルの種類についてのリクツです。

実際には各社の製品毎にかなりの違いがありますよね。

維持してくれる水質、水草の育ち具合、団粒構造の持ちなど。

 

私は、具体的にどの製品がどうだって自信満々に言えるほどの経験は残念ながら無いので、このあたりのリクツをアタマの片隅に置いて、製品選びをしてみてください。

 

  • つくれる水質 pH・硬度がどのあたりで安定するのか?平衡点は低めなのか?高めなのか?
  • 栄養分の量・色
  • 団粒構造の持ち具合

 

■ソイルの寿命と関係すること

 

前述のように様々な点でソイルは水草水槽にとって理想的な底床材なわけですけど、最大の問題は、その優れた性質は団粒構造に負っていて、団粒構造はいずれ壊れていく。…寿命があるってことですね。

 

もちろん、団粒構造が壊れていなくても、まっさらのソイルを使って立ち上げた頃のように、強力に一定のpH・硬度に水質を維持してくれるとか、養分豊富で水草をグングン育ててくれるとかって能力は、早ければ数ヶ月で陰りを見せてきてしまうわけです。

吸着できるだけ吸着しちゃうとか、ソイルの中の使いやすい栄養分を使いきっちゃうってことですね。

 

ただそれでも団粒構造が維持されていれば、陽イオン交換は…吸着して吐き出して一定値に保とうとする…は、劇的でないでだけで効き続けますし、通水性も維持されて底床内が嫌気化してしまうということもないわけです。

 

では、その肝心の団粒構造を壊してしまうのはなにか?ですけど、

まずは物理的な破壊ですね。

ソイルをいじればいじっただけ壊れるってことです。

水草を抜き差しする、底床を掃除する、底床肥料を突っ込む…こういうことによって、確実にソイルは壊れ粉になっていきます。

粉は底に沈み通水性を奪い嫌気化・還元的な環境になることで、さらに構造が破壊されていきます。猛毒の硫化水素も出てきちゃったりするわけです。

 

ソイルを押しつぶすものとしては、水圧の影響も大きくて、深い水槽ほど水がソイルを押し付けて、壊れやすく・潰れて詰まり易くなります。

 

また、ゴミの詰まりやソイルの間に出る藍藻などもソイルの通水性を奪い団粒構造の破壊に繋がっていきます。

 

次に水草の根による破壊もあります。養分を求めて根が進んでいけば破壊が起きるわけです。

また、ソイル内の栄養を…腐植質やカルシウムなどを水草や底床生物が使用することは、団粒構造の結着剤を使ってしまうのと同じことです。

 

ただ同時に、水草の根や底床生物による表層の枯葉・糞・残餌などの取り込み分解は、底床内に有機物を供給することになりますし、また底床生物の出す粘液は、底床生物が動きまわることと相まって団粒構造を再構築することにもつながります。また底床生物の活動や水草の根が通水性の維持や酸素の供給につながり嫌気化を防ぎます。水草の根は底床内に酸素を送り込むことができるんです。特にオモダカ科のものやスイレンなどは底床の泥化に強いですね。…水中の泥は嫌気化しやすいので発達した水草の特殊能力ですね。畑作物の多くは土中に酸素を送る能力が低いので、通気性が悪くなると育たなくなっちゃうわけですね。

 

他にも極端な低GH...カルシウム不足は、ソイルの団粒構造の壊れやすさにつながっていきます。またCO2の添加不足は水草がHCO3を使うことになって脱灰...KH低下にもつながり結果的に低GH化につながることがあります。このあたりは、その他pHや肥料添加との関係など言い出せばいろいろありますが、それほど気にすることもないですかね。

 

要するに、団粒構造を維持するためには、

  • できるだけいじらない
    水草の抜き差し・掃除などを出来るだけしない。
  • 底床内の養分を使いきらせないような肥料添加を行う。
    あるいは最初から有機物(腐葉土などの緩効性の有機肥料)を仕込んでおく。水草の根などを取り除かないなど有機物を維持する。
  • 底床生物を意識的に維持する。
    例えば、乱暴な大量の・あるいはキチンと塩素処理していない水換え、魚病薬などの薬品の投与などの底床生物に大打撃となることは避ける
    例えばカイミジンコはソイルの中に入って掃除が出来るエビだと思って大事にする。
  • そうは言っても、嫌気化が進みそうな状況があるなら…通水性がなくなってきているのなら、意識的に、芝生に空気穴を開けるように穴を開けるとか、プロホースをどんどん突っ込んで粉汚れを取るとかした方が良い。
    そもそも、通水性が損なわれにくいように、底にパミスを集めに敷いておくとか、底床供給器を入れるとか予めしておく。
    また、底床内への酸素供給も意識して根張りの良い水草ブリクサとかサジタリアとか)を植えておく。
  • 極端な低GH状態を避ける。...多くの水草に取ってもあまりに低すぎるGHは良いことがないです。

 

ってところですね。
ソイルの寿命を少しでも伸ばす…団粒構造を維持するってことを考えたら。

 

■ソイルの使用量と通水性対策

上記のことを...団粒構造を・通水性を維持する(嫌気化を避ける)ということを考えると、例えば、60cm水槽で多くても5cmくらいの厚みにしておくべきでしょう。

容量で8リットルとか10リットルとか。

当然、厚く入れたほうが多くの栄養を持ち込めるわけですが、厚みをつけると嫌気化が進行しやすいですから。

 

但し、前述のようにソイルのさらに下にパミスを厚く入れておくなどして十分に通水性を確保できるしくみをつくっておけば、もっと厚みをつけていくことも可能です。

押しつぶされて壊れたソイルの粉がパミス層に落ち込んでソイルの間を詰まらせない、それ以前にパミス層の空間が逃げ場になってソイルが押しつぶされにくくなるわけです。

 

私は、60cm規格水槽で、パミスや底床供給器が占める量が合わせて7リットル強、その上にソイルを10リットルくらい入れています。

 

これ、リクツの上では、やはり長期的には水圧が問題になるので、小さい水槽...浅い水槽ほど、その高さに対して厚くソイルを入れるということが可能になります。

逆に大きな深さのある水槽ほど問題は深刻に...ソイルが痛みやすくなります。

 

なので、大きくて深くて長期維持するつもりのある水槽ほど、底床内の通水性維持対策が重要になりますし、逆に水深を浅く取った水槽なら特に対策を取る必要もないわけです。

 

■ソイルの歴史

 

アクア用のソイルは日本で発明されたものですね。

いろいろ辿ってみると、

最初は明らかに多くのアマチュアアクアリストが、水草水槽に赤玉土を使い始めたのが最初みたいです。

その後、(確証はもてないのですけど、おそらくは)ヒロセペットがアクアプラントサンドをアクア用に出したのが、専用商品としては最初なのではないでしょうか?

その後、ADAのアクアソイルの発売もあって、メジャーになってきたって感じですか。

何にしても、90年台半ばの話なので、まだ20年(もう20年?)くらいの歴史ってことですね。

 

アクア用のソイルは、日本で生まれて日本で発達してきたわけですが(そもそも日本特有…と言っても良いくらいの黒ぼく土使ってるわけだし)、水道の水の水質がかなり異なる海外だとどうなんですかね?

 

軟水化効果も限界がありそうだけど。

ただ最近は海外でもソイルの製品化って少しずつ進みつつあるようですね。

 

■ソイルに代わるものはあるのか?

 

20年前まではソイルは無かったんですよね。

大磯砂とかを使っていたわけです。

今でも水草に砂礫系の底床材を使っている人は居るけど、それはソイルの最大の弱点...いずれ壊れていく...けっこう寿命が短いっていうことを嫌うためですよね。

 

そういう長期使用できる底床材の中で、少しはソイルに近い性質のものを探すと、

多孔質で少しは補肥性があり通水性の確保もしやすいということだと溶岩や麦飯石を適当なサイズに砕いたものとか、さらに高機能なセラミック材とかがありますよね。

 

陽イオン交換と言えば、ゼオライト(沸石)。

ソイル同様に...というかそれ以上に強力な軟水化効果があって、またミネラルやアンモニウムなどを吸着して水草の足元に集めてくれます。

ゼオライトを砂利や砂状に加工したものも売ってますよね。

水草水槽には良さげだけど、2点ばかり決定的な問題があります。

 

まずは、蓄えたアンモニウムなどを簡単に一気に放出してしまうことがあること。...特に言われるのは塩水・高硬度の水を入れた時ですね。これはヤバイ。ヤバイけど、水草水槽では基本的には、それほど大きな問題にはならないかな。海水魚水槽や塩を加える事もあるグッピーやメダカ、金魚などの水槽とかじゃなきゃ。

 

次に炭酸ガスも吸着しちゃうこと。うーん。これはダメですね。

 

濾材の一部に使ったりもされているけど、水草水槽の場合はダメでしょ?基本的には水換えの水作りに使うって感じですか。

 

なかなかソイルの欠点を補う底床材って無いものです。

 

コメント: 3
  • #3

    ひばごん (金曜日, 05 11月 2021 20:54)

    凄い・・面白過ぎました!
    元総合アクアメーカ営業な私が見て勉強になるって思えるサイトは
    本当に少ないので勉強になりました!!

  • #2

    管理人 (水曜日, 20 4月 2016 19:21)

    ハイドロボールを水槽に使ったことはないので、なんとも。
    たしか粘土を高温で発泡焼成したものですよね?
    イオン交換能とかありそうですけど。
    ただ元の粘土がpHやGHがどうなるのか?って分からないですし。
    基本的にはおそらく水槽に使って特に問題があるということは無いとは思います。責任持てませんが。
    それと、ソイルと決定的に違うのは養分ですよね。
    これはハイドロボールとかにはほぼ期待できないところです。
    水草を育てるなら、最初から施肥については考えていかないと ですね。ソイルなら 施肥とか考えなくても最初のうちはよく育ちますけど。

  • #1

    ダリル (水曜日, 20 4月 2016 17:32)

    ソイルの代わりに、観葉植物のハイドロカルチャーで使うハイドロボールとかハイドロコーンと呼ばれるモノの使用はどうでしょうか?

    基本、水耕栽培用なので、水草にも使えそうな感じですが。