土壌(ソイル):人類にとって最も重要な資源
2014.2.12
例によって、あまり整理しようとも思ってなくて思いつきでなんとなく書いている話です。そんなもんですから。
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1ヶ月くらい前に「土の文明史」(デイビッド・モントゴメリー)って本を読んだ。
内容は、この手のことが好物な人ならタイトルからして容易に想像できるように、幾多の文明が土壌流出によって滅亡・衰退してきたっていう話。繰り返しいろいろな文明論に出てくる話ですね。
そのケーススタディを農業の起源から現代の状況まで延々と並べてるって感じの本です。
ただこの本を手にとって読むまで、私としては全く思い至らなかったというか、ハッ!とさせられたのが、
「土壌(ソイル)こそは、人類にとっても最も基礎的な資源である」ってこと。その視点に目が覚めたよ。
言われてみれば、全く当たり前のことだけど、「有限の資源である」って捉え方が出来てなかった。
文明を支える基礎の基礎は、食料で、食料を生産する農業で、人口は農業の生産力で決まるわけだ。
もちろん、特定地域だけ見れば食料輸入って形で解決できるから、そうじゃないけど、地球全体で見ればそういうことだ。
でもって、その作物を育むことの出来る土壌は、
・岩石が風化して、砂や粘度などに細かく砕かれたものに
・腐植質が混じって(つまりは土壌生物の働きによって)
形成されるわけだけど、
これは、地表面にごくわずかに存在するだけで、乱暴な使い方をすると容易に失われてしまう。
温帯では数メートルはあることも多いわけだけど、熱帯などでは数十センチしかなかったりする。
本来、農業に適しているとは言えない土壌が薄かったり・再生産能力が低かったり・そもそも土壌が流亡しやすい 傾斜地、ステップ、熱帯雨林などを安易に開拓すると、極めて短期間に土壌は失われる。熱帯雨林を切り開いたりすると10年なんて持たずに耕作放棄せざるを得なくなり、復元も殆ど不能になる。耕作地の使い捨てですね。
世界中でそんなことがあいも変わらずに、というかむしろ加速している。土壌という決定的に重要な資源が再生産されるよりも遥かに速い速度で乱暴に消費されてしまっている。
だから、この点で、空気とかとは違って、資源として見ていくべきなのだよね。
土壌は食料生産の基盤であるだけでなく、例えば、大気中のCO2濃度が上がってきている問題にも無関係とは言えない。
地表のバイオマスが固定している炭素は、大気中の炭素の3倍弱あるわけで、地表のバイオマスのかなりの部分が土壌中の腐植質として保存されるものなのだから。
...そんなこんなの話は、読んでから1ヶ月も経っちゃってる私が追っかけて書いてもあまり意味が無いので、読んでいて、それならこういう視点もついでにもっと触れて欲しかったって思ったことについて幾つかメモ。
この本でもグリーン革命の...化学肥料の功罪について触れているのだけど、「有機栽培は意外と経済的にも見合う」っていう視点などだけじゃなくて、化学肥料の大量使用が土壌を流亡させるメカニズムについてももう少しは触れて欲しかったと思う。
化学肥料は素晴らしい。人工的に空中の窒素を固定化して植物が即座に効率的に使用できる窒素肥料をつくることができる。カリウムも比較的入手は容易だし本来岩石中に大量に含まれているので人工肥料を効率よくつくることができる。
では何が問題なのかというと、化学肥料は人間の栄養摂取のかたちに例えるなら点滴で栄養を摂っているみたいなもので、それがあればひとまず効率的に栄養摂取できて生きれちゃう・作物を育てられちゃうわけだけど、それに頼ると持続的に栄養を自ら得ていく基盤を損なっていってしまう。
下手に面倒な説明にしてしまった。今のは無し。
化学肥料と有機肥料の違いを一言で表せば、化学肥料には炭素分が含まれていないということ。
植物は炭素をCO2のかたちで空気中から取り入れるので、直接は土中の炭素分は必要としないわけだけど、土中の炭素分は何のために必要なのかと言えば、土壌生物の活動のために炭素...炭水化物などが必要だ。
ミミズだったり土壌バクテリアだったり。
彼らが活動することで、土は上下に撹拌、団粒構造も再構築され、通気性と保水性を保つようになる。
逆に有機物の再投入をせずに、化学肥料ばかりを使っていると、土壌生物の活動が弱り、保水機能が損なわれるようになり、土壌の流亡が起きやすくなる。
通気性を維持するために耕したりすると、ますます風や水で土壌は失われやすくなる。
また化学肥料は無機肥料だからこそ即座に効くが、そもそも水に溶けやすく流亡しやすい。保水機能が損なわれていくとますます流亡しやすくなる。流亡しやすいからますます多めに使うという悪循環に陥りやすい。
さっき、化学肥料は空気中の窒素固定などで(エネルギーを使えば)無尽蔵につくれるかのように書いたけど、問題はリンで、リンは窒素やカリウムのように容易に入手できない。
リンは、水鳥の糞が長期間堆積してできたグアノなどを主な原料にしていて、低コストで入手できる資源量はみるみる減っていて、実際に主な化学肥料の原料の中でリンだけが価格上昇を続けている。使い尽くしてしまうのが目に見えている状況だ。
もちろん、下水中のリンを集めるとかリンを確保する方法は他にもいろいろあるわけだけど、どれもコストが見合わない。
ここで注目すべきはやっぱり菌根菌。
陸上植物と菌類(フンギ...キノコやカビや麹菌などの仲間)が深い相利関係にあって、進化が進むほどに共生関係を深めているっていうことへの理解が深まってきているわけだけど、
中でも菌根菌が土壌中のリンを植物のために効率的にかき集めてきてくれるって点は大きい。
他にも、水を集める、保水や通気を良くするなどの点でも貢献している。つまり土壌維持にも貢献しているわけだ。
ところがこの菌根菌は、土壌にリン肥料が撒かれてしまうと、ろくに活動しなくなってしまうのだよね。というか消えちゃう。
植物からしたら菌根菌に頼らなくてもリンが調達できちゃうわけだし。
今後、だんだんと人工肥料としての調達が難しくなっていくであろうリンを効率的に作物に確保させていこうと思ったら、菌根菌が働ける環境を整えてやるってことが大事になるはず。
化学肥料を使うことで、土壌生物の多様性がいったん失われると、様々なニッチががら空きになるので、病害虫の異常発生も起きやすくなる。そうすると殺虫剤などを使うことになるわけだけど、これがますます土壌の生物相を貧弱にしていく。土壌が死んでいく(=土壌生物が消えて、土壌の再生産サイクルが破壊される)。
化学肥料はダメ、農薬はダメ...、有機じゃなきゃダメ...、なんていうことを言う気は無い。
そんなことを言い出したら、そもそも農業自体が本質的に不自然なものだし、その不自然な農業にみんな乗っかって生きているのだから、自然じゃないからダメだなんてことを言う資格は誰にも無いはずだからね。
クスリは体に悪いから使うなってのと同じくらいの暴論になってしまう。
ただ化学肥料に依存しきって化学肥料だらけにされた土壌はやばい。出来るだけ有機物を土壌に戻していく工夫もしていかないとってこと。
これ日本国内とかで言っててもしょーがなくて...そういう理解はそもそもかなり進んできているわけだし...、例えば中国とかアフリカとかの乱暴な農業で土壌をすごい勢いで壊しているところで言わなきゃ話にならないのだけどね。
とは言っても、日本の食料自給率は、主要先進国の中でも異様に...ほとんど常軌を逸してるってレベルで低い30%代後半。
ってことは、使い捨てされている「バーチャル土壌」を大量輸入して成立しているってことなのだから、本当は無関係なんかじゃないはずなんだよね。
シーレーンが寸断されたら...こわいね〜。
これってそもそも日本の土地の生産力を考えた時に適正人口をとっくに超えてるとか、農業政策の問題とかも大いに関係あるわけだけど、食生活の変化、やっぱり小麦で摂る炭水化物が増えすぎってのもありますよね。(もちろんもっと肉食化...肉を作るための穀類輸入ってのもあるわけだけど)
もともと水稲は日本の自然環境に適していて、単位面積当たりの収穫量を他の穀類よりも遥かに高めることができるわけだけど、それも1シーズンだけでみるだけでなく、さらに長期に見ると他の多くの穀類は連作障害が出やすいけど、水稲栽培は極めて出にくいわけで、さらにその差は開くわけです。
古代文明で(というよりも今に至る多くの主要な文明で)土壌流出問題に悩まされなかったのはエジプトだけだって言われているわけですが(それもアスワンハイダムなんていうバカなものをつくったお陰で壊れちゃったのだけど)、それはナイル川が定期的に養分を上流からかき集めて再供給してくれてたからですよね。
稲作も少し似たところがあって、水が肥料分を再供給してくれるっていう面もあって、多くの水田では極論すると肥料投入なしでもある程度水稲は作り続けることが出来るわけです。(充分な量の・市場クオリティのものをつくるってことは全く別ですけど)
本来は斜面で限界耕作地といえるところを棚田で上手く長期維持するなんて技術もずば抜けてますしね。
もうちょっとこのあたりは...日本ではどうだったの?ってのは注目して良いはずなのに。
先の本では全く触れられていなくてがっかりでした。
話がずれた。
というか着地点を見失った。
...最初からあったのかってのは別にして。
まー許してください。
最初から期待もしてなかったでしょ?
この手のことにもともと興味が無かったわけではないのだけど、やっぱり理解を深めるきっかけになっているのは圧倒的に水草いじりがきっかけ。
追記。
化学肥料については、もうちょっと気になることもあって、
それは、固定化された窒素の激増。
もともと窒素の殆どは、極めて安定したN2として空気中にあったわけで、これを生物が活用できるように窒素固定できるのは、例えば雷の放電だったり、窒素固定菌の活動だったりで、その供給源は極めて限られていたわけですよね。
使いきった後で、分解再利用...つまりリサイクルに回っていたものが殆どだったわけです。
ところが人間が化学工場で空中窒素を固定できるようになってから...たかだか100年程度で、地球上の固定化された窒素の量は倍になっていると言われています。
つまり、あなたもわたしも体を構成するには大量の窒素が必要なわけですが、今やその窒素の半分は化学工場由来ってわけです。
生化学に特に関係が深い元素の存在の形が...その割合が大きく変化しちゃっているわけですね。
これって、CO2の増加なんかより深刻な環境変化につながらないのかな??とか、時々うっすら考えるんですよ。
で、どうなるとか、まー全然分からないんですけどね。 (・ω<)